バスに乗った。
遠くに電車の光が見える。この間まで明るかったのに、17時30分、あるいはもっと前からだろうか、その頃にはすっかり暗くなっている。悲しい。
混んでいたので立つ。夕方、郊外に向かうバスはなにかと忙しそうだ。まだ駅前とかろうじて言える道を、あっちへ揺れ、こっちへ揺れ、バスは走る。運転手さん、なんだか激しくないですか?まっすぐ立っていられなくて、つり革を思いっきり引っ張るだけでは足りず、足を開いてふんばる。やっぱり荒い。
席が空く。
座って、外を眺めていた。後ろの誰かさんが、なにやらビニールの袋をガサガサしている。なんとだとも思っていなかったけれども、そのうちに甘いにおいが漂ってきた。なんだか懐かしいにおいなのだが、なんだろう、思い出せない。フルーツのグミみたいなにおいなんだけど。
なんて考えていると、お母さんと小さい男の子が乗ってきた。
「あ」
立ち上がろうとすると、後ろの席が空いているから大丈夫だと言う。なんか、恥ずかしい。間違ったことをしたわけではないし、そんなはずもないけれど、余計なお世話でしたか、なんて考えてしまう。
私は自分のことしかわからない。自分が見たこと、聞いたこと、感じたこと、知ったこと、その範囲で外の世界を判断する。
なんだか混んでいた車内の後部がどれくらい空いているのか、そんなの後ろを振り返らないとわかりえない。でも私は振り返って見なかったから、わからなくて当然だ。今日の運転が荒いのは心が乱れているのか、運転が苦手なのか、あるいはわざとか。そんなことわからない。聞きませんよ、今日のバスは随分横揺れした気がしますけど、なにか理由があるんですか、なんて。
ああ、なんだか落ち着かない。いいじゃない、そういうこともあるよ、と思いつつ、自分を肯定してあげないとなんだかそわそわする。きっと誰からも共感を得られないような、私自身も寝たら忘れる出来事なのに、今はまだをちくちく刺激する。
もう!
さあさあ、そんな日は寝ましょう。寝て、そんなこと忘れてしまいましょう。