美術館を楽しめないあなたへ(絵画編)

美術館が好きで通っています。

そんな私から、美術館での鑑賞について、なんちゃって講義をしようと思います。美術史的に見たり、感覚重視であったり、鑑賞に正解はありません。参考にしていただき、ぜひ自分の鑑賞スタイルを見つけてください。

 

 

 

美術館に行く理由は様々です。デートで、学校の宿題で、時間つぶしで……もちろん、素直に作品が見たいという人もいるでしょう。理由は何であれ、美術館に行く人が増えることは、美術館好きとしては好ましいことです。

しかし、問題はその内容です。せっかく行ったのにつまらなかった、という人は少なくないのではないでしょうか。とても残念なことです。つまらないのは、あなたに知識がないからでも、感性や才能がないからでもありません。「見る力」が十分に備わっていないからです。見る力がなければ、美術館に行ってもキャプション(作品を解説している、四角いあれ)を読んでばかり、肝心の作品が心に残りません。

まずは、見る力を育てる必要があります。

 

見る力ってなんだ、という話ですが、ここでは「何が描いてあるか理解すること」としておきます。人物画であれば、どんな人が何をしているか、手は挙げているのか下げているのか、あるいは腰に当てているのか、何か持っているか、足はどうだ、顔はどちらを向いている、といったことを把握する力です。

そんなこと見ればわかるじゃん、と言われるかもしれませんが、では、見てわかったことを他人に言葉で伝えることはできますか?これ以上伝えることはないと言えるほど、細かく言葉にできますか?絵画には多くの情報が詰め込まれています。それを伝えられないというのは、情報を取りこぼしているということであり、「見たつもり」になっている可能性が高いです。

 

現代社会は、刺激の多い世界です。光や音、様々な物質にあふれ、私たちの五感は常に刺激されています。街をただ眺めているだけで、多くの音楽が、文字が、体の中に一方的に流れ込んできます。その刺激に慣れてしまった私たちにとって、美術館という場所や絵画という物体は、静かで、少し暗くて、静止していて、実に低刺激です。水墨画なんて、黒と白の世界です。

そんな低刺激の作品から情報を得るには、こちらも少しばかり準備をしなければなりません。そういう話です。

 

では、見る力の鍛え方です。

見たものを言葉に置き換えてみましょう。

「橋の上で、黒っぽい服を着た人が、頬(耳?)に手をあてて、目を丸く、口を立てに開けて、腰を向かって左側に突き出すようにして立っている。顔の輪郭は電球型であり、髪の毛は生えていない」

ムンク「叫び」より、画面中央に描かれている人を言葉にしてみました。イメージできたでしょうか。

どういう行動をしているかだけなく、どいう形状をしているか、どんな色をしているか、といった点にまで注目すると、受け取る情報は増えますし、言葉にする難しさが増していきます。結構疲れますが、そうやって観察することこそが、見る力を鍛えることにつながります。インターネット等で作品を見つけて、言葉にして紙に書き出してみるといいと思います。抽象的な作品は、「何が描かれているか」を理解するのが難しいので、最初はおすすめしません。

 

慣れてきたら、ぜひ美術館に行ってみましょう。好みの作品だけ、じっくりと見つめてみましょう。実物の良さは、その大きさです。どんなふうに筆を取り、描いたのか、作品の目の前に立つと画家の息遣いまでもが聞こえてくるような感覚になれれば、十分に見る力が備わっています。

すべての作品を事細かに見る必要はありません。100や200を超える展示作品の中から、1つ2つ、お気に入りの作品を見つけられればそれで十分です。見る力を鍛えてから美術館に行けば、「なんかつまらなかった」はなくなるはずです。こんなことが描いてある、という発見がたくさんあるのですから。

 

 

 

見る力を鍛えるとビジネス的にもいいよ、っていうのをまとめた本があるので、参考文献として載せておきます。ここに書いた「見る力」の話についても、同じようなことが書いてあるのですが、美術界・美術館界ではわりとメジャーな話だと思います。

美術に慣れ親しんでない人がいきなり美術館に放り込まれて、困った挙句に「美術嫌い!」となってしまうのは悲しい限りです。繰り返しになりますが、美術鑑賞に必要なのは知識よりも感性よりも「見る力」です。自分の目で見るという行為が大事なのです。

楽しいアート・ライフを送りましょう!