待ちに待った晴れ。ここぞとばかりにあれもこれも洗濯してやった。
が、これだけ太陽がギンギンギラギラだと外に出るのが億劫で、こういうご時世だから余計な外出は控えるべきではあるけれど、本屋に行きたいとかジムに行きたい(行かなきゃ)という欲求がしゅーっと縮んでいくのがわかる。そう、ジム、ちゃんと申し込んだんですよ。
スーパーに(お店側の意図する通りに)足を踏み入れて最初に飛び込んでくる青果売り場、その一番目立つところに鎮座するのがお桃さまになった。この間まではサクランボで、その前は苺だったと思う。中玉2個で398円、大玉だと498円、黄桃は598円。4個入り、箱入り、ちょっと高級な1個売り。
母は桃の名産地出身で、昔は親戚から桃をたくさん送ってもらった。もう桃をつくるのを辞めたんだが単純に疎遠になってしまったんだか、理由は忘れてしまったけれど、いつの頃からか我が家に桃は届かなくなってしまった。父の仕事の関係で出荷できない山形産佐藤錦をたらふく食べていたこともあり、我が家は桃とサクランボについては恵まれた家庭であった。
桃の横ではプラムが8個入りで298円になっているけれど、桃を食べたい欲は、プラムではおさまらないだろう。圧倒的な存在感。漂う甘い香り。吸い寄せられて、でも変なところでケチ臭くて、中玉2個をかごに入れた。
桃の皮剥きは大変難しい。きれいな剥き方を動画なり料理サイトで調べればいいのだけれど、まあ面倒だしどうせ自分で食べるしで、いつも適当に剥いてしまう。せっかくなら、きれいにやればいいのに。
包丁を入れるごとに、じゅわりぽたぽた汁が垂れていく。桃を持つ手に力が入ると、桃に指の跡がつく。桃を切るのがうまい人が見れば、ああ何やってるの!もったいない!!と叫びだすような光景が広がる。果汁はダラダラ、身はガタガタ、それでもなんとか切り分けた桃。とりあえず、種についた果肉にかじりつく。種付近独特の、渋みというかすっぱみがあって、子どもの頃に母が桃を切り分ける横で種をもらっていたのを思い出す、懐かしい味だ。
今日は冷やすのみ、食べるのは明日。皮を剥いたのを塩水に浸し、取り出したところにはちみつをかけて、食べる準備をしておこう。
全ては、明日のために。
…………
私はこらえ性がなくて気が短くて、我慢ができない。
お風呂上がりの夜10時、冷蔵庫に手をかけた私は、桃を取り出し、フォークをもち、きちんと正座していた。まあもう1個あるし、いっか!塩水につけたけれど、変色しちゃうかもしれないし、いっか!!法律の抜け穴を探し出す狡猾な法律家よろしく、食べてもいい理由をすらすらと思いつく。
はちみつをかけた桃は甘ったるく、でも桃の水分でそこまで重くない。噛めば、桃の繊維が歯でぶちりと切れていくのがわかる。ああ、おいしい。全部食べてしまったけれど、まだ残っている。もう1個は、きちんと明日食べるようにしよう。
玄関から一歩外に出れば、降り注ぐ紫外線、あるいは煩わしく足元を濡らす雨が襲ってくる。職場に着けば、面倒な人間関係が待っている。本当にだるいけれど、桃が冷えて待っているのなら、そんなのなんてことはない。