1/30晴れ、多勝1敗1引き分け、イエローカード1

人生には何度か「負けられない戦い」が存在する。振り返ってみればそれほど大層なことではないものの、負けたら後がないと本人は真面目に考える。

私の戦いは、毎年冬に始まる。

 

気温が下がって雪が降り、一度溶けてほどよく踏み固められた後再凍結した路面はよく滑る。なめらかな表面も滑るし、足跡や車の轍ででこぼこになった道も不安定で滑る。道が暗いと足元の状況がわからず不意打ちで滑り、横断歩道は車と人とで押し固められ見るからに滑る。そんなつるつるの上にやわらかな雪が積もると、一見大丈夫そうに見えて表面の雪ごとずるりと滑ってしまうので、気をつけなければならない。

転びたくない。

 

と言いつつ、今年は一回転んでしまった。駅前の人通りが多い交差点、横断歩道を渡る人々とそれを待つ自動車の前で、堂々と尻もちをついた。お尻まで覆うダウンを着ていたので身体へのダメージはそれほど、しかしやっちまった!!という精神ダメージは避けられない。

転ぶ瞬間、時間はゆっくりと流れた。やばい、転ぶ、こんなところで、今年はまだ転んでなかったのに、ああでも割れたりこぼれたりするような荷物がなくてよかった、等々。身体は勝手に、と言ったら他人事なんだけれど、私が何も考えなくても転ばないように右足を出し、左足をふんばり、手を広げてバランスを取っている。大丈夫かも、体勢を持ち直したと感じた次の瞬間には、ぺたんとお尻が路面に着いていた。

どすんじゃなくてぺたん、だったところに、私の反射神経が最大限働いていた様子がうかがえる。私の身体機能もまだ捨てたものじゃないな、と思いつつ、そそくさと立ち上がり(ここでの二度目の転倒には本当に注意が必要)、転びましたけれど何か?みたいな気取った顔をしてその場を後にした。心臓はいまだにバクバクと音を立てているが、そんなものは他人に聞こえないのだから構わない。

 

秋ごろから売り場には防寒・防滑の靴が並ぶが、その中にはヒールのある靴も紛れている。かく言う私も、大したことはないが3㎝程度の踵があるブーツを持っていて、まあいけるかと思って家を出たがやはり踵のないものに比べればいささか足元がおぼつかない。朝、玄関を出るときの自分を呪いつつ、今さら仕方ないのでゆっくりと足を運ぶ。と、後ろから誰かがくる気配がした。

雪道は、いかに歩きやすい道を見つけるかという熾烈なポジション取りと、どうぞどうぞの譲り合い精神で成り立っているが、その時の私は後者を選択した。お先にどうぞ、とよけるために道を少し外れたその地は、一面つやつやと輝く地獄であった。一歩踏み出すだけでわかる、ここは歩いてはいけない場所だ。

後ろを歩いていたお兄さんは私の横を抜けていったので、私も元の道に戻ろうとする。そろり、つるり。転びそうになったけれど、後ろの足を前に出して、ついでに右手も出してなんとか耐える。後ろでごそごそしている気配に気づいたのか、お兄さんは一瞬振り返りそうになっていたが、そのまま行ってくれた。少しつんのめる右手が痛い、が、転んでいないので負けてはいない。カウントは引き分け。

 

外の様子はどうですか、とパーソナルトレーニングのトレーナーさんに問われたので、つるつるですよ、歩くのが大変です、と答える。○○の交差点で転んじゃいました、と言うと、あそこやばいですよね!と盛り上がった。最近、この手の雑談をすることがほとんどなくて、このトレーナーさんとの世間話は私の中で大変重要な時間となっている。悲しい。

若い子(大学生くらい)が走って渡っていて、危ないな~って……と発言して、ハッと気づく。私は大学生くらいの年代を、若い子という年齢になってしまったのか。そしてこのトレーナーさんは、私よりその若い子に近い世代ではないのか。自分が確実に年を重ねていることを意外なところから気づかされたが、正直、このことが一番ダメージが大きい。反則負けにしようと思ったが、悔しいのでイエローカード扱い。

 

今朝も起きたら雪が積もっている。戦いはまだ続きそうだ。

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これはまだ大丈夫な方。今はもっとひどい